
グローバルニュースサイト「The Worldfolio」に弊社代表取締役CEO 野口 圭登のインタビュー記事が掲載されました。
日本のエンタメの強みや課題、Brave groupの戦略、将来の展望などをお話ししています。
The Worldfolio 記事(英文)
本記事では日本語訳をお届けします。
── 日本のエンターテインメント業界には長く豊かな歴史がありますが、2025年現在、中国や韓国といった強力な競争相手がいて、競争が激化しています。このような変化の中で、日本のエンターテインメント業界が世界市場で競争力を発揮する「核心的な強み」を何だとお考えでしょうか?
ゲーム、アニメ、エンターテインメント全体を見ると、日本はゲーム業界でも強い存在感を示していますが、日本の本当の強みは2Dコンテンツ、特にマンガとアニメにあります。他の国々も独自の強みを持っていて、例えば韓国のK-POPは世界を席巻していますし、米国と中国は強力な政府支援のもと、ゲーム分野で積極的に進出しています。 ゲーム、アニメ、マンガ以外では、日本のエンターテインメント業界はそれほど強くありません。だからこそ私たちは知的財産(IP)コンテンツに注力し、日本の文化資産を活用・拡大することで、急速に進化するグローバル市場で競争力を維持することを目指しています。
── 日本は少子高齢化に伴い、人口減少という大きな課題に直面しています。予測では、2050年までに人口が1億人を下回るとされています。これにより、クリエイティブな人材の減少が進み、新たなオリジナルIPの創出がより困難になる可能性があります。 このような状況の中で、この課題に貴社はどのように対応していますか?また、成長性と創造性を維持するために、どの程度グローバル展開が必要だとお考えでしょうか?
日本の少子高齢化はエンターテインメントやクリエイティブ業界にも影響を与えていますが、一方で、ソーシャルメディアやYouTubeなどの新しいプラットフォームが登場したことで、個人が自身の才能を発揮しやすくなりました。マクロレベルでは若年層の人口は減少していますが、一人ひとりのクリエイターが発信できる範囲は以前よりも広がっているため、こうした人口動態の変化にうまく適応していると言えます。
アニメの分野では、日本は依然として世界トップレベルの品質を誇っていますが、生産コストの急騰が大きな課題となっています。過去には数百万円で制作できたアニメシリーズも、現在では1シリーズあたり3億円以上かかるケースが増えています。人気作品では1話あたりの制作費が1億円を超えることもあり、高品質ではありながらも、コストは前例のない水準にまで押し上げられています。
そして中国のような国は人気のトレンドを素早く察知し、低コストで類似コンテンツを制作する能力に長けています。日本が国際競争力を維持するためには、品質とコストのバランスを注意深く保つ必要があります。
そこで重要になるのがオフショア化です。日本がアニメ制作においてリーダーであることに変わりはありませんが、品質を維持しながらコストを最適化する方法を模索しています。私たちはタイに子会社を持っており、日本のコンテンツが持つ職人技と価値を維持しながら、より低コストでアニメを制作する方法を積極的に検討しています。
── 日本は高品質なコンテンツで知られており、その結果、日本のIPは世界的に大きな人気を集めています。この需要の高まりを受け、多くの企業がコレクターズアイテムやマーチャンダイジングで収益を上げようとしています。
貴社は上海、バンコク、羽田空港などに実店舗を構え、世界中の消費者との接点となる「Brave stores」を立ち上げましたね。
このストアの戦略的な狙いとターゲットとしている特定の顧客層について教えていただけますか?
また、限定品や日本製品の世界的な人気を活用して、どのような魅力を創出しているのでしょうか?
日本のIPおよびコンテンツは、Netflixのようなプラットフォームの普及やコロナ禍の影響もあって、世界中で絶大な人気を博しています。
人々が自宅で過ごす時間が増えたことで新たなメディアに触れる機会が増え、韓国ドラマや日本のアニメはこの視聴習慣の変化から大きな恩恵を受けました。
アニメが欧米の視聴者に強く支持される理由の一つとして、複雑で魅力的なストーリーテリングが挙げられます。日本のクリエイターは、ニュアンスを考慮し、細部までこだわりますが、これは細やかな配慮が重要とされてきた日本の閉鎖的な歴史によって形成された考え方です。対照的に、西洋のスーパーヒーローものの多くは、ヒーローが常に勝利するシンプルな勧善懲悪の構造で、面白いのですが、ストーリー自体の深みに欠けることもあります。日本のアニメは、多層的な物語やキャラクターの成長、相互に関連するサブプロット、没入感のある長編ストーリーテリングを特徴とすることが多く、視聴者を長きにわたって魅了します。
ここ数年、私たちはアニメ関連イベントへ積極的に参加しているのですが、世界的な関心の高まりを強く実感しています。例えば、パリやバンコクではアニメグッズを扱うショップが多数ありますが、ニーズを十分に満たしているとは言えません。現在、アニメグッズのグローバル展開を積極的に行っている企業はかなり限られています。
この市場のギャップを埋めることが、Brave storesの戦略の核となります。
私たちは、グローバルなアニメグッズ市場においてお客様のニーズに応えながら小売展開を拡大していく方針です。
Brave stores Haneda
── フランスやタイ、その他のグローバルな市場での貴社のストアに対する明確なニーズが見られます。今後、新たに実店舗を展開する予定の国や地域として、特に注目している場所はありますか?また、新規出店の際には、どのような点を重視して出店地域を決定しているのでしょうか?
現在、私たちはアジア市場に注力しています。その理由はいくつかあります。
まず時差が少なく、ビジネスオペレーションをしやすいことが挙げられます。また、文化的な共通点も多く、アジア圏のアニメファンの中には日本語を学ばれる方も多いため、言語の壁が比較的低く、製品のローカライズに大きなコストをかけなくて良いという利点があります。
一方で、アメリカは日本に次ぐ世界第2位のアニメ市場でがありますが、進出には大規模なローカライズが必要で、難易度は高くなります。さらに、円安の影響もあり、今のタイミングは最適ではないと考えています。
こうした課題を踏まえ、まずはアジア市場での展開を優先することが最善策と考えています。
具体的には、中国や東南アジア諸国をターゲットとしています。まずはアジア市場で経験を積み、出店モデルを洗練させることで、将来的にアメリカやヨーロッパへ進出する際に、よりスムーズに展開できると考えています。
── アニメやゲーム業界におけるローカライズの課題について言及されていましたが、これは単なる言葉の翻訳ではなく、物語の意味や文化的なニュアンス、感情的な深みを適切に伝えることが求められる、非常に複雑なプロセスです。
貴社の海外子会社はすでに中国語や英語へのローカライズを積極的に進めていますが、コンテンツの本来の魅力を損なわずに、グローバルな視聴者にとって親しみやすい形で届けるために、どのような工夫をされているのでしょうか?
また、今後、新たにローカライズの展開を検討している市場があれば、お聞かせください。
グローバル展開には大きく2つのアプローチ方法があります。ひとつは日本のコンテンツをそのままグローバル市場に持ち込む方法、もうひとつは市場に合わせて完全にローカライズする方法です。
当社の戦略は地域ごとに異なり、例えばタイ、中国、北米、ヨーロッパといった市場では、単に日本のコンテンツをそのまま持ち込むのではなく、現地のタレントを起用したり、現地法人を設立するなど、本格的なローカライズに投資しています。
また、VTuber事業を展開する際も、オーディションを開催し、それぞれのマーケットで活躍するタレントを育成します。これにより、現地の視聴者との絆をより深めることができます。
トレンドや嗜好は地域によって大きく異なります。
例えばヨーロッパでは、ゲーム内のスポーツに強い関心を持っているため、グローバル戦略を策定する際にはそうした文化的な背景も考慮しています。
世界的に、オタク(アニメやゲーム、その関連コンテンツに熱狂的なファン)の数は大幅に増加しています。以前は「オタク」というと過度なファンと結びつけられ、一部で偏見を持たれるケースもありました。しかし、欧米でのアニメ人気の高まりとともに、その偏見は薄れて広く受け入れられるようになっています。
アメリカ市場向けのローカライズでは、ジェンダーレスの観点も重視しており、従来は男性中心とされていたグループに女性を含めるといった対応を行っています。一方で、タイでは日本文化への深い理解と親和性があるため、大規模なローカライズは行っていません。
今後も、各市場のニーズに応じてローカライズ戦略を洗練し、コンテンツのオリジナリティを維持しながらも、グローバルな視聴者にとって魅力的なものを提供できるよう展開していきます。
── 貴社は2017年に設立され、当初はスタートアップとしてのスタートでしたが、複数のM&Aを経て、豊富な知識と専門性を備えた堅実な企業へと成長されました。Brave groupが競合他社と差別化できるポイントは何でしょうか?また、エンターテインメントおよびコンテンツ制作業界における貴社のビジネスモデルの独自性についてもお聞かせください。
当社は17社のグループ会社を擁しておりますが、IP・コンテンツ業界において、これほどの規模でM&Aを実施しているスタートアップは他にありません。
多くのエンターテインメント企業では、CEO自身がプロデューサーであるケースが多いという業界特有の構造があります。彼らは優れたコンテンツ制作の才能を持っていますが、事業経営の面では課題を抱えることも少なくありません。その結果、企業のスケール化や持続的な成長が難しくなることがあります。
私たちのミッションは、こうした企業に経営の専門知識を提供し、支援し、彼らが最も得意とすることに集中できる環境を整えること、つまり、素晴らしいコンテンツ制作に集中できるようにすることです。
また、当社の独自性は、単なるコンテンツ制作者にとどまらないところ、すなわち、IP戦略も手掛けている点です。
私たちは自社IPを開発しますが、自社に留まらず他社のIPの拡大や収益化まで支援しています。
私たちのクライアントには、サンリオや集英社といった大手企業も含まれており、私たちのゴールはグローバル規模でプロデューサー、クリエイター、タレント、配信者とともにIPのエコシステムを構築することです。
なお、IP制作における強力な基盤があるため、他の企業と協力し、アセット・ノウハウを活用してコンテンツを強化することができます。
私たちは常に原石、つまり世界中の視聴者に届く可能性のある優れたコンテンツやクリエイティブ作品を探しています。
Brave groupは単なるIP制作会社ではありません。私たちは、クリエイティブな才能を育成・管理し、IPを強化し、日本のコンテンツを世界中に届けるネットワークを構築しています。この包括的なアプローチが、競合他社との違いです。
A selection of Brave group’s VTubers
── 日本での成功をグローバル市場でも実現するために、海外市場でダイヤモンドの原石、つまり優れたコンテンツやIPを発掘し、獲得したいと考えていますか?その場合、どのような地域や業界に特に関心がありますか?
2024年8月、英語圏で成長していたVTuber事業の「idol」を事業譲受しました。VTuberは2016年に日本で初めて誕生して以来、世界的なムーブメントを起こし、大多数の国でVTuberが活躍しています。このムーブメントを通じて、当社は世界中のVTuber分野のスタートアップと強いコネクションを築き、多くのCEOや代表と関係を築いてきました。私たちはアジア市場での可能性を探るため、より深くアジア市場に目を向けています。
(近々重要な発表があるので、是非注目していただきたいです。)
VTuber事業だけでなく、当社はesports事業にも強みがあります。
esportsは、単にビデオゲームをプレイするだけでなく、ますます進化を遂げています。若い視聴者は、ゲームの競技的な側面に深く興味を持っており、伝統的なスポーツと同じような方法で戦略分析しています。
ぶいすぽっ!は、“ゲームで感情を動かし、動かされよう。 Move Emotion With Games”というビジョンのもと、世界共通言語であるゲームやesportsを通じて、応援してくださる皆様に新しい一歩を踏み出すきっかけを提供しています。所属タレントたちはストリーミング配信やesports大会への参加、アニメ・メディアミックス展開など、多岐にわたる活動を積極的に行っています。
ゲーミングタレント分野でいえば、パフォーマーやストリーマー、そしてファンの方々においても、ガジェットを愛用されています。
当社はぶいすぽっ!キャラクターの世界観にこだわった、独自のハイエンドキーボード“VSPO! GEAR”を開発し、およそ30,000円で販売しました。この価格にもかかわらず、ゲーマーならびにファンの方々に愛され、大ヒットを記録しました。
ヒットの要因は、ただのグッズ制作ではなく、きちんとゲーマーのために研究し尽くしたプロダクト開発をしていた点にあります。
Brave groupの差別化の話に戻しますが、私たちのゲームに関する深い専門知識およびVTuberからesports、ゲーム周辺機器に至るまでを保有していることが、私たちを際立たせており、この分野におけるリーダーとしての地位を確固たるものにしています。
── Brave groupは、海外に多数の子会社を持つグローバル企業としての地位を確立しています。また、esportsとVTuberのプロジェクトを統合した連動プラットフォームを作るというアイデアにも言及されていますね。近い将来、力を注いでプレゼンスをさらに拡大しようと考えている特定の国や地域はありますか?次に成長する場所を決定づける要素は何ですか?
現在、韓国に注目しています。韓国のVTuber市場は大きな成長を遂げており、私たちは積極的に業務提携を模索しています。さらに、esports分野においても中心地のひとつであり、世界中の観客を魅了し続けるK-POPとも非常に親和性があります。
K-POPの魅力とVTuberカルチャーを融合させ、まったく新しいユニークなものを生み出すバーチャルK-POPのコンセプトには、大きな可能性を感じています。音楽、ゲーム、バーチャル・パフォーマンスをひとつのまとまった体験に融合させることで、エンターテインメントを再定義する可能性があります。
さらに、バーチャルアーティストというコンセプトには重要な利点があります。それは、カメラの前でパフォーマンスすることに抵抗がある才能ある人々が、バーチャル空間で輝くことを可能にする点です。これにより、新たな才能の発掘が可能になり、エンターテインメントの領域がさらに広がります。
韓国はこれらのトレンドを活用できる重要な市場であり、VTuber、esports、バーチャル音楽の枠を押し広げ、次世代のエンターテインメント体験を創造する場となると考えています。
── もし私たちが2年後に再びこのインタビューを行うとして、達成していたい目標や夢は何でしょうか?Brave groupは今後どのように進化していると考えていますか?また、その過程でどのようなマイルストーンを達成していたいとお考えでしょうか?
今後2年間の目標は、VTuber文化を海外市場に定着させ、安定させることです。VTuberは主にYouTubeを基盤としたメディアですが、多くのパフォーマーにとって、匿名のまま才能を発揮できる新たな表現の手段となっています。
これまで、歌手や俳優、エンターテイナーを目指す人々は、公の場に姿を現す必要がありました。しかし、VTuberという形態は「匿名性」に守られながら、人前に出ることへのプレッシャーを感じることなく、才能を存分に発揮できる環境を実現しています。
私はこの分野に大きな可能性を感じていて、まだまだ成長の余地が十分にあると考えています。
理想は、私たちのコンテンツを通じて、VTuber文化が世界中の視聴者に受け入れられ、楽しんでもらうことですが、たとえ他の企業が推進したとしても業界全体の中長期的なビジョンに寄与するので、共に頑張りましょうという気持ちです。
VTuber事業にとどまらず、私たちはIPの創出にも力を入れています。
現在、主要プロジェクトのひとつ「ぶいすぽっ!」で開発しているアニメシリーズは、2026年からの配信を予定しています。私たちの大きなビジョンは、デジタル版の集英社となることです。単にオリジナルIPを創出するだけでなく、M&Aを通じてIPを獲得し、成長させることにも取り組んでいます。
最終的には、ディズニー、任天堂、ソニーといったエンターテインメントの巨頭と肩を並べる規模へとビジネスを拡大し、デジタルエンターテインメントおよびIP開発のグローバルリーダーとして確立したいと考えています。
私たちは『世界に、日本の冒険心を』というパーパスを掲げています。
『80億の、心をうちぬけ』というミッションを達成するために、今後も精進します。